1. 名 称
 妊娠中毒症を妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension:PIH)との名称に改める.
2. 定 義
 妊娠20週以降,分娩後12週までに高血圧がみられる場合,または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで,かつこれらの
症候が偶発合併症によらないものをいう.
3-1. 病型分類
1)妊娠高血圧腎症(preeclampsia)
 妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し,かつ蛋白尿を伴うもので分娩後12週までに正常に復するもの.
2)妊娠高血圧(gestational hypertension)
 妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し,分娩後12週までに正常に復するもの.
3)加重型妊娠高血圧腎症(superimposed preeclampsia)
①高血圧症が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し,妊娠20週以降に蛋白尿を伴うもの.
②高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し,妊娠20週以降に,何れか,または両症候が増悪するもの.
③蛋白尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し,妊娠20週以降に高血圧が発症するもの.
4)子癇(eclampsia)
 妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こし,てんかんや二次性痙攣が否定されるもの.発症時期により妊娠子癇・分娩子癇・
産褥子癇とする.
3-2. 症候による亜分類
1)症候による病型分類
高血圧蛋白尿
軽症血圧がいずれかに該当する場合
①収縮期血圧が140mmHg以上で160mmHg未満
②拡張期血圧が90mmHg以上で110mmHg未満
原則として24時間尿を用いた定量法で判定し,300mg/日以上で
2g/日未満の場合
重症血圧がいずれかに該当する場合
①収縮期血圧が160mmHg以上の場合
②拡張期血圧が110mmHg以上の場合
2g/日以上の場合.随時尿を用いる場合は複数回の新鮮尿検査で,
連続して3+(300mg/dL)以上の場合
2)発症時期による病型分類
 妊娠32週未満に発症するものを早発型(early onset type),妊娠32週以降に発症するものを遅発型(late onset type)とする.
【付 記】
1)妊娠蛋白尿(gestational proteinuria):妊娠20週以降に初めて蛋白尿が指摘され,分娩後12週までに消失するもの.病型分
類には含めない.
2)高血圧症(chronic hypertension):加重型妊娠高血圧腎症を併発しやすく,妊娠高血圧症候群と同様の厳重な管理が求められ
る.妊娠中に増悪しても病型分類には含めない.
3)肺水腫・脳出血・常位胎盤早期剥離およびHELLP症候群*は必ずしも妊娠高血圧症候群に起因するものではないが,かなり深
い因果関係がある重篤な疾患である.病型分類には含めない.
4)高血圧をh・H,蛋白尿をp・P(軽症は小文字,重症は大文字),早発型をEO(early onset type),遅発型をLO(late onset
type),加重型をS(superimposed type)および子癇をCと略記する.
例)妊娠高血圧腎症は(Hp-EO),(hP-LO)など,妊娠高血圧は(H-EO),(h-LO)など,加重型妊娠高血圧腎症は(Hp-EOS),
(hP-LOS)など,子癇は(HP-EOSC),(hP-LOSC)などと表示する.
9 高血圧症
 妊娠にみられる高血圧症の分類343)は,妊娠高血圧症候群の新しい定義・分類として2005年4 月より変更された(表28).高血圧症合併妊娠では,正常血圧の妊婦に比べて, 早産, 子宮内胎児発育不全(intrauterine growth retardation:IUGR),周産期死亡,妊娠高血圧症候群などの周産期異常を伴いやすいことが知られている.なかでも,妊娠高血圧症候群を合併すると,常位胎盤早期剥離や周産期死亡は増加するといわれている344).また,原疾患も妊娠により影響を受けて,悪性高血圧,脳出血,心不全,腎機能障害などが起こりやすくなるので,適切な管理が要求される.これには降圧薬の使用が中心となるが,妊娠中の薬剤使用にあたっては次のような問題に注意を要する.
1 催奇形性と胎児毒性 2 子宮血流との関連 3 降圧薬投与の可否とその選択
表28 妊娠高血圧症候群の定義・分類(日本産科婦人科学会,2005)
*溶血(Hemolysis),肝酵素上昇(Elevated Liver Enzyme),血小板減少(Low Platelets)を主徴候とする症候群であり,妊娠中(主
  に27週以降)や産褥期に発症する
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心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)