①未治療の腹部異型大動脈縮窄では,腎性高血圧から心不全,
腎不全が報告されている
敗血症,妊娠高血圧腎症となることもあり予後不良である
(レベルB)
②異型大動脈縮窄─大動脈縮窄のガイドラインに準じる
③大動脈弁逆流症─弁膜症のガイドラインに準じる
④大動脈瘤(大動脈弁輪拡張症を含む)─Marfan症候群に準
じる
⑤虚血性心疾患(冠動脈入口部狭窄)─外科治療後の適応を
検討する
⑥高血圧症に対しては,β遮断薬を投与し,ACE阻害薬(ARB)
は用いない
⑦ステロイド治療の継続をするが,投与量増量に至ることは
まれである
⑧自己免疫性疾患,結合組織病(膠原病)としての病態に注
意する
2 高安病
260)-262)
表26)
 主に若い女性に発症する結合組織病(膠原病)で,動脈の炎症を主体とし,動脈の狭窄や閉塞により症状が出現する.大動脈に炎症が波及すれば,大動脈弁逆流,大動脈瘤,大動脈縮窄などを合併することがある.鎖骨下動脈や冠動脈に狭窄がみられることもある.また,肺動脈に炎症が波及すれば,肺高血圧症を合併し,心肺機能の低下を来たす.

 妊娠・出産の報告はあるが,多数例の報告は認められないため,指針を記載するのは困難と考え,少数例の報告をまとめ情報を記載する.

 妊娠・出産は基本的に可能であるが,高血圧を認める場合には,計画的に高血圧をコントロールして妊娠高血圧腎症,腎不全および心不全に注意して出産へと導くことが重要である.子宮内胎児発育不全や低出生体重児も多く,流産・死産も少なくない.

 外科治療の適応のある心疾患や大動脈疾患は,妊娠前に手術を受けるよう指導する.腹部の未治療の異型大動脈縮窄を有する場合,腎性高血圧から心不全や腎不全となることが報告されている.また,敗血症や妊娠高血圧腎症を合併することもあり,この場合の予後は不良である.

 ステロイド治療は継続する.妊娠・出産例は,妊娠前からプレドニゾロン内服量5〜15mg/日でコントロールがついている場合が多く,妊娠中は炎症反応が軽度に増
加したか,あるいは不変であった.帝王切開術前後にプレドニゾロン内服を中止とし,水溶性プレドニゾロンの静脈内投与に切り替える.出産後も,プレドニゾロン内
服を続けるが,維持量程度であれば母乳栄養に問題はないとされている.動脈の狭窄部位があるなどの理由で低用量アスピリン(80〜100mg/日)を内服する場合もある.妊娠中および授乳中の低用量アスピリンの内服は,一般的には比較的安全と考えられているが,添付文書上は,出産予定日12週以内および授乳中の内服は禁忌扱いとされている.よって,以上の状況で使用する際は,説明と同意を得る必要がある(「弁膜症」─「抗凝固・抗血小板療法」参照).その他,結合組織病として,感染,貧血(鉄欠乏性),凝固因子異常などにも留意して管理する.

 異型大動脈縮窄については,次項の「先天性大動脈縮窄症」に準じる.大動脈弁逆流症併発例では,「弁膜症」に準じる.大動脈瘤(AAEを含む)では,前項の「Marfan症候群」に準じる.虚血性心疾患(入口部狭窄)では,まず外科治療を行い,その後の妊娠・出産の適応を検討する(「虚血性心疾患」参照).

 血管炎であり,ステロイド治療中であることが多く,弁膜症の合併も少なくない.よって,血管内膜炎や感染性心内膜炎のリスクが高いと考えられる.以上より,産
科的手術・手技,分娩に際して,予防投薬を推奨する(「感染性心内膜炎」参照).
表26 高安病の妊娠・出産におけるポイント
ACE阻害薬:アンジオテンシン変換酵素阻害薬,ARB:アン
ジオテンシン受容体拮抗薬
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心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)