1 急性・亜急性
 慢性心不全にも使用される薬剤については,次項に詳細を記載する.

① 利尿薬

 急性心不全にはフロセミドの使用が一般的である.母体の循環改善が主たる目的である.注意事項として,過度の利尿による子宮循環低下,胎児利尿による脱水や電解質バランスの異常などがある.

② ジギタリス

 主として,頻脈性心房細動時の心拍数コントロール目的に使うことが多い.胎盤を容易に通過するが,胎児血中のジギタリス濃度は母体よりも低濃度(50〜100%)
に維持され,大きな問題となることは少ない.

③ 硝酸薬

 血管拡張に伴う減負荷効果を期待して,急性心不全治療に使われる.

④ ホスホジエステラーゼⅢ(PDE Ⅲ)阻害薬

 血管拡張薬作用と心収縮力増強作用を併せ持ち,体内貯水傾向の心不全には使いやすい.添付文書上は,アムリノンとオルプリノンは妊婦への使用が禁忌とされている.

⑤ カルペリチド(ヒト心房ナトリウム利尿ペプチド製剤)

 カルペリチドは,血管拡張作用,ナトリウム利尿作用,レニン─アルドステロン系抑制作用を有し,また交感神経抑制作用があることから,肺うっ血を合併した心不全
症例に使われる.ただし,重篤な低血圧,心原性ショック,脱水例には禁忌である.比較的新しい薬剤であり,妊婦に対する使用報告は少ない.

⑥ カテコラミン

 概ね安心して使用可能と考えられる.
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心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)