2 治療の適応と実際
① 頻脈性不整脈
1)期外収縮
非妊娠時と同様に,基礎心疾患がなく,無症状または軽度の症状の場合は,原則として治療の対象とならない.
2)発作性上室頻拍
発作性上室頻拍既往の妊婦の半数が妊娠中に発作が再発するとの報告から366),妊娠前から発作性上室頻拍が確認されている症例においては,妊娠前に高周波カテーテル・アブレーションを行うことが望ましいと考えられる.
妊娠中に発作性上室頻拍が持続すると,胎児血流障害を来たすため,早急な治療が必要となる.循環動態が安定している場合は,迷走神経刺激法を試みる.これらの方法で停止が得られない場合は,アデノシン三リン酸(ATP)の静脈内投与(5〜10mg)が安全かつ有効と考えられている364).
長期間の発作予防が必要な場合は,β遮断薬またはジゴキシンの投与が比較的安全と考えられている373).非特異性β遮断薬は妊娠前期の投与は避け,心臓特異的なβ1 遮断薬(メトプロロール)を使用することが望ましいと考えられている374).また,薬剤抵抗性でincessant型の発作性上室頻拍の症例では,妊娠後半で高周波カテーテル・アブレーションを安全に行えたとの報告もある370),374).
3)心房粗動,心房細動
循環動態が不安定な場合は直流除細動を施行するが,頻脈性心房細動では心拍数コントロールのためにβ遮断薬およびジゴキシンの投与が必要となる375).なお,妊娠中の直流除細動は安全とされている365).
4)心室頻拍
持続性心室頻拍で循環動態が不安定であれば,ただちに直流除細動を行う.妊娠中の直流除細動は安全とされている365).安定した心室頻拍の場合は,リドカイン,メキシレチンおよびプロカインアミドの投与が安全または比較的安全と考えられている375).また,右室流出路起源の場合はβ遮断薬が有効な場合が多い299).致死的不整脈など,重篤な不整脈では,アミオダロンの投与も検討される5).
5)QT 延長症候群
心停止や失神発作などのイベントは,妊娠期間中と比較して, 分娩後に多く認められると報告されている308),312).β遮断薬による予防的治療の継続が,妊娠期
間中のイベント発生を有意に抑制することから,β遮断薬の継続が必須であると報告されている308),312).
② 徐脈性不整脈
妊娠期間中の有症候性の洞不全症候群や房室ブロックの場合は, 恒久ペースメーカ植え込みの適応となる312),317),318).一時ペースメーカおよび恒久ペースメーカに関しては,胎生13週以後の器官形成後であれば,照射線量を最小限に抑えた状態で,比較的安全に行えると考えられている306).
③ 基礎心疾患に合併する不整脈
基礎心疾患に合併する不整脈の治療に際しては,前項の不整脈治療の原則に加えて,基礎心疾患に起因する心機能異常や循環動態異常についても勘案する必要がある.心疾患術後患者は,妊娠中有意な不整脈を認める場合でも,厳重な観察あるいは的確な抗不整脈治療を行えば,罹病率は高いものの母体死亡は少ない1),179),307),376).ただ,妊娠中に頻脈性不整脈を伴うと,原疾患に基づく循環動態や心機能の異常がある場合は,母体・胎児ともに罹病率が高く,母体死亡の可能性もある.胎児の流死産,低出生体重児の頻度は高い1),179),375).また,慢性心房細動は,器質的心疾患を伴う母体に生じると,心不全を伴いやすく,流産を生じやすい297).なお,抗凝固・抗血小板薬の影響については,「弁膜症」─「抗凝固・抗血小板療法」を参照のこと.
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)