6 不整脈
次へ
 妊娠中や出産時には,母体の循環動態に急激な変化が起こる(「妊娠・分娩の循環生理」参照).そして,循環血液量増加,心拍出量増加,心拍数増加,内分泌機能変動,自律神経系機能変動などに加えて,妊娠・出産・育児に伴う精神的・肉体的な負担も誘因となって,様々な不整脈が起こり得るようになる295).妊娠・出産が不整脈発症ないし再発にどの程度寄与しているかを解析した報告は少なく,妊娠前から不整脈の発生を予測することは困難である.そのため,少ないながらも現在までに集積されたデータから,不整脈発生時の母体および胎児の予後を予測し,妊娠中の不整脈治療の有効性や安全性を考え,さらに基礎心疾患があればその評価も行いながら,管理計画を立てることが重要である.

 妊娠中の不整脈の頻度はそれほど多くはない.10万妊娠に対して洞性不整脈が104(0.1%),心房性および心室性期外収縮が33(0.03%)と,治療の不要な不整脈の割合が比較的多いが,治療を要するような不整脈は,上室頻拍が24(0.02%),心房粗・細動が2(0.002%),心室頻拍ないし心室細動が2(0.002%),房室ブロックが1.5と比較的少ない割合となっている1),25),295)-301)

 不整脈を来たす基礎心疾患として,弁膜症,心筋症,先天性心疾患などがあるが,近年のリウマチ性弁膜症の減少や,成人に達する先天性心疾患患者の増加により,妊娠中に不整脈を合併しやすい心疾患患者の割合も変化している25),135),302).妊娠前に不整脈を合併していた先天性心疾患患者では,妊娠後も引き続き不整脈に対する治療ないし厳重な管理が行われることが多い1).先天性心疾患術後は,妊娠中に有意に心拍変動が低下し,このことが不整脈の発生に影響する可能性がある2).心疾患以外では,甲状腺機能異常,電解質異常,薬物などに起因する二次性不整脈も起こり得る.

 ここでは,母体に基礎心疾患を伴わない場合の不整脈(不整脈単独)と,基礎心疾患を伴う場合の不整脈に分けて述べる.基礎心疾患の有無にかかわらず,不整脈による有意の循環動態変化は,母体・胎児双方への影響が大きいため,適切な対応が必要となる.不整脈治療に際しては,薬物の母体・胎児双方への影響を勘案する必要がある(「妊娠中の薬物療法」参照).
1 母体に基礎心疾患を伴わない場合の(一般の妊娠時の)不整脈 2 母体に基礎心疾患を伴う場合の不整脈
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)