1 心疾患の男女共通の問題点
 心疾患患者の妊娠・出産時の問題点,安全性などについて,妊娠前にカウンセリングを行うことが望ましい45),46).妊娠前カウンセリングは,妊娠可能年齢であ
る思春期以降,結婚前,妊娠前などに行う.カウンセリングの内容は,妊娠・出産の母体リスク,胎児リスク,遺伝,将来的展望(患者の寿命,家族環境,経済的自立,保険など社会心理的展望も含む),性行為,育児などの問題を含む.先天性心疾患の調査では,既婚率は女性の方が男性よりも高い3).さらに,女性の結婚年齢は,一般女性と比較すると有意に若い3).心疾患患者は,結婚・妊娠後に,比較的早期に疾患が悪化する可能性を考慮した結果とされる.男性は,妊娠・出産時のリスクはないが,それ以外の問題点は女性と共通することが多い.

① 性行為,妊娠のしやすさ

 重症心疾患であっても,一般と変わらず,男女ともに性行為は可能である46).心疾患を持つ女性の避妊は,性行為自体が危険だからではなく,妊娠・出産そのもののリスクが高いからである.心疾患患者は,性行為に積極的でない場合が多い.この原因の1 つは,性行為や妊娠・出産に関する適切なカウンセリングを受けていないためである47).先天性心疾患女性は,基本的には一般と比べ,月経の周期,持続期間,出血量,安定性などに差がみられない.しかし,先天性心疾患,特に,チアノーゼ性や外科手術回数の多い先天性心疾患は,月経異常や無月経の頻度が高いとする報告もある48),49).また,チアノーゼが残存する女性は,月経の出血量が多い.非チアノーゼ性先天性心疾患では,妊孕能(妊娠のしやすさ)は一般と同様なことが多いが47),50),Fontan手術後やチアノーゼ性先天性心疾患では,月経異常と妊孕能の低下が一般的とされている51),52)

② 遺伝

 心疾患の親子間の繰り返し頻度は,一般頻度と比べると高い.母親が心疾患である場合は,父親が心疾患である場合より高い.多くは多因子遺伝形式によるとされており,飲酒や喫煙,向精神薬の内服などの,既知の要因の摂取に対する注意喚起も必要である(「妊娠カウンセリング」─「遺伝カウンセリング」参照).

③ 育児/ 社会生活/ 保険

 心疾患女性は,出産後に心不全や不整脈などを併発したり,心臓の状態が悪化したりすることがある.このため,出産後しばらくの間,育児を行うことが難しい場合
がある.中等症以上の心疾患を持つ女性の場合は,出産年齢は30歳代よりも20歳代の方が,また出産回数が少ない方が,より妊娠・出産に耐えられる46).心疾患男性の場合も,中等症以上では,育児参加が十分にできない場合がある.さらに,再手術,心不全,不整脈などによる治療や入院も,加齢により増加する53),54).一般家庭では,男性が家庭の経済的な負担を担うことが多いため,育児などの社会的・経済的側面を考慮すると,中等症以上の心疾患男性も,高齢で子どもを持つことは望ましくない.また,心疾患がある場合,生命保険や疾病保険に入れない場合も多い3),53),55)-57)
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心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)