薬剤V-W
分類*
FDA
勧告*2 適 応特徴・副作用催奇
形性使用中の授乳
添付文書*3
妊婦授乳
キニジンIA C 種々の不整脈血小板減少なし恐らく可能2 1
プロカインアミドIA C 種々の不整脈ループス様症候群なし恐らく可能2 1
ジソピラミドIA C 種々の不整脈子宮収縮なし恐らく可能2 1
リドカインIB B VT 徐脈,中枢神経系副作用なし恐らく可能2
メキシレチンIB C VT
徐脈,中枢神経系副作用
低出生体重児なし恐らく可能2 1
フェニトインIB D ジギタリス中毒胎児ヒダントイン症候群
不整脈に対する保険適用なしあり可能2
フレカイニドIC C VT,SVT 正常な心臓ではなしなし恐らく可能1 1
プロパフェノンIC C VT,SVT 正常な心臓ではなしなし恐らく可能2 1
アテノロールⅡ D SVT,VT,Af IUGR,低血糖,徐脈なし潜在的毒性2 1
プロプラノロールⅡ C→D SVT,VT,Af IUGR,低血糖,徐脈なし潜在的毒性2 1
メトプロロールⅡ C→D SVT,VT,Af IUGR,低血糖,徐脈なし潜在的毒性1 1
アミオダロンⅢ D VT
甲状腺機能異常
徐脈,IUGR
なし禁忌2 1
ソタロールⅢ B→D VT,SVT 徐脈なし潜在的毒性2 1
ベラパミルIV C SVT,VT,Af 低血圧,徐脈なし恐らく可能1 1
アデノシンNA C SVT 悪心,顔面紅潮なし恐らく可能2
ジゴキシンNA C SVT,Af 徐脈,低出生体重児なし可能2
カテゴリー米食品医薬品局基準
A
ヒトの妊娠第1期(あるいはそれ以降)の女性の対照研究において,胎児への危険性が証明されず,胎児への障害の
可能性が低いもの
B
動物の生殖研究では胎児への危険性は証明されていないが,ヒトの妊婦に対する対照研究が実施されていないもの.
あるいは,動物の生殖研究では胎児への有害作用が証明されているが,ヒトの妊娠第1期の対照研究では胎児への有
害性が証明されず,妊娠中期以降の危険性が証明されていないもの
C
動物の研究では胎児への有害作用(催奇形性,胎仔毒性)が証明されているが,ヒトの妊婦に対する対照研究が実施
されていないもの,あるいは,ヒト・動物ともに研究が実施されていないもの.潜在的な利益が胎児への潜在的な危
険性より大きい場合にのみ使用すること
D
ヒト胎児への危険性の確実な証拠が存在するが,その危険性にもかかわらず,特定の状況(例えば,生命が危険にさ
らされている状況や重篤な疾病において,安全な薬剤が使用できないか無効な場合など)では,妊婦への使用による
利益の方が容認されるもの
X
動物またはヒトでの研究で胎児異常が証明されるか,ヒトでの使用による胎児への危険性の証拠が存在し,使用によ
る潜在的な利益よりも危険性の方が明らかに大きいもの.妊婦または妊娠する可能性がある女性には禁忌なもの
1 基本的事項
 妊娠中に,不整脈によって有意な循環動態の変化を生じる場合,母体・胎児へ与える影響が大きく,緊急治療を要する場合もある.

 妊娠中に安全性の確立している抗不整脈薬はなく,すべての抗不整脈薬は投与に厳重な注意を要する317),318),363),364).FDAの薬剤胎児危険度分類11)(表16)と,米国小児科学会による薬剤の母乳分泌の有無に関する勧告150)を参考として,妊娠中の抗不整脈治療に関して述べる(表41).これらの勧告は,形態的,機能的に正常と考えられる心臓に合併した妊娠中の不整脈に対する,抗不整脈薬の限られた使用経験に基づいたものである.器質的心疾患に伴う不整脈の場合には,基礎心疾患固有の循環動態や心機能なども考慮して使用する必要がある.

 個々の抗不整脈薬の胎児・新生児に対する影響について,特に注意すべき点を述べる(「妊娠中の薬物療法」参照).フェニトインは,胎児ヒダントイン症候群など
の催奇形性があり,不整脈への適応がジギタリス中毒などに限られるため,妊娠中に使用する機会は少ないと考えられる.また,添付文書上のフェニトインの使用適応は,てんかん発作に限られていることにも注意が必要である.Vaughan Williams 分類Ⅱ群薬(β遮断薬)は,子宮内胎児発育不全との関連を指摘されてきたが,もともとの母体リスクや,過量投与による胎盤循環不全の影響の方が大きいと考えられている.分娩前や授乳中のβ遮断薬使用に際しては,新生児の徐脈や低血糖に注意する必要がある.メトプロロールは,母乳中での濃縮が報告されているため,内服中の授乳を避けることが望ましい.アミオダロンは,胎児の甲状腺機能異常が報告されているため,使用の際は厳重な注意が必要である.また,アミオダロンは,母乳中に濃縮されて分泌されるため,授乳中の使用は避けることが望ましい.ジゴキシンの使用に際しては,母体の血中濃度モニタリングによる使用量の調節が,母体・胎児のジギタリス中毒の予防に有用となる.

 非薬物治療として,妊娠中の直流除細動(DC)は安全とされている365)

 妊娠中に悪化が予想される徐脈性不整脈は,器官形成期での放射線照射を避ける意味から,妊娠前にペースメーカ装着を考慮する必要がある.また,妊娠中に再発率の高い頻脈性不整脈366)では,診断されていれば妊娠前のカテーテル・アブレーションが検討される.妊娠中におけるカテーテル・アブレーションや,ペースメーカおよび植え込み型除細動器(ICD)の植込みに際しては,心臓超音波検査,3次元マッピングシステムの使用などにより,X線照射時間をなるべく短くするかゼロにする方法が報告されている317),367)-370).ペースメーカないし植込み型除細動器装着後例は,比較的安全に出産できる371),372)

表16 米食品医薬品局(FDA)の薬剤胎児危険度分類(pregnancy category)
(文献11より訳出,改変)
表41 主な抗不整脈薬の特徴(妊娠中および授乳中の使用)
Af:心房細動,IUGR:子宮内胎児発育不全,NA:クラス外,SVT; 上室頻拍,VT:心室頻拍
*  不整脈薬のVaughan Williams 分類による
    薬剤情報は主に“Drugs in Pregnancy and Lactation 8th edition(2008)”(文献11)に従った.
*2  B→D/C→D:妊娠第1期の使用はBまたはC分類だが,妊娠第2〜3期の使用はD分類となる
*3   薬剤添付文書による,(妊産婦/授乳婦)への投与に関する情報(空欄は記載のない薬剤)
 1   禁  忌:妊婦または妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと.また,投与中に妊娠が判明した場合には,ただち
                     に投与を中止すること.授乳中の婦人に投与することを避け,やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること.
 2 相対禁忌:治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合のみ投与すること.妊娠または妊娠している可能性のある婦人に
                     は投与しないことが望ましい.妊娠中の投与に対する安全性は確立されていない.
【注意事項】
1) 妊婦への使用に際しては,適応・禁忌を確認すること.
2) 適応外または禁忌とされる薬物を使用する場合は,十分な説明と同意を得ること.
次へ
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)