1 病態
心不全は左心不全,右心不全,収縮障害性,拡張障害性などに分けられるが,いずれの病態でも妊娠の経過中に認められる容量負荷や頻脈はその増悪因子となる.妊娠時には,循環血液量の増大,心拍数の増加以外にも,体血管抵抗と肺血管抵抗の低下が認められ(「妊娠・分娩の循環生理」参照),後二者は心不全コントロールに際して通常は有利に働くが,不全心では前二者の不利な影響の方が強く表れ,妊娠中に状態が悪化することが少なくない.すなわち,本来なら妊娠の経過とともに増大すべき1 回拍出量を,不全心ではまかなうことができず,全身の低灌流状態を引き起こす.また,容量負荷のため心室拡張末期圧は上昇し,このため肺動脈圧が上昇して肺うっ血を来たす.静脈圧も増加して末梢浮腫の状態となる.心臓超音波検査で観察すると,妊娠中期以降は健常例でも左室径が大きくなるが,不全心では心拡大がより顕著に認められ,これにより心室壁張力が増大して,ますます心機能が障害される.
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)