規定因子オッズ比
(95%信頼区間) p
母体
心血管イベントの既往6(2-21) 0.0044
症候性持続性不整脈17(6-47) 0.0001
NYHA>Ⅱまたはチアノーゼ15(3-70) 0.0009
左心狭窄疾患*
(左室流出路または流入路狭窄) 7(3-18) 0.0001
心機能障害*2 9(3-32) 0.0011
児NYHA>Ⅱまたはチアノーゼ8(2-30) 0.0035
2 リスク要因と対処
 心不全を有する妊婦は,その程度が強いほど死亡率が高い.児については,早期産および子宮内胎児発育不全が多く,死亡率が高いことが知られている.したがって,NYHA分類Ⅲ度以上の女性に対しては妊娠しないように勧め,たとえ妊娠しても早期に中絶を行うことが推奨されている58),294),320)

 NYHAⅢ度以上の例,心筋機能低下例(駆出率<40%,または拘束型心筋症,肥大型心筋症など)では,チアノーゼ例,症候性持続性不整脈例と同様に,経過中に心不全や不整脈などの心血管系イベントを起こしやすい59)(表27).先天性心疾患例でも,NYHAⅡ度以上,心不全の既往例では,心血管系のイベントを起こしやすいことが報告されている342)(レベルB).

 胎児においても,母体のNYHA分類Ⅲ度以上,チアノーゼ例で,死亡,早期産児,呼吸促迫症候群などのリスクが高くなる.

 しかし,例えば駆出率で何%以上なら妊娠継続が可能か,といった明確なガイドラインが呈示されているわけでもなく,また妊娠時の心機能循環動態の変化も予測し
がたい点が多い.したがって,個々の症例において,注意深く臨床経過や心臓超音波検査などの検査結果を観察し,病態の変化が認められれば,入院の上,適切な加療を行うことが重要である.過労は避ける一方で,逆に極度の安静による静脈うっ滞にも注意が必要である.塩分制限についても同様である.
表27 妊婦,胎児の予後に影響を与える心疾患
(文献59より引用改変)
母体では,心不全,症候性持続性不整脈,脳梗塞の発生をもっ
て予後不良とした.児では,死亡,早期産児,呼吸促迫症候群,
脳室内出血,子宮内胎児発育不全を予後不良とした.
*   大動脈弁弁口面積<1.5cm2,僧帽弁弁口面積<2.0cm2
    左室流出路収縮期圧較差>40〜50mmHg
*2  体心室駆出率<35〜40%または 拘束型心筋症,肥大型
    心筋症,チアノーゼ性心疾患
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心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)