6 川崎病冠動脈病変
川崎病既往の女性が既に出産年齢に達している.冠動脈狭窄がなく,心機能が正常である場合は,妊娠・出産に問題はないと考えられている.しかし,冠動脈病変(特に冠動脈狭窄病変)を残した場合,心筋梗塞後や冠動脈インターベンション後(冠動脈バイパス術後)の妊娠・出産は,虚血病変の進行や心不全悪化の可能性がある.妊娠中の循環動態変化や凝固能亢進状態の,冠動脈病変に与える影響については明らかではない.また,冠動脈病変を残した川崎病の妊娠の報告は,いまだ少ない.少なくとも43人の冠動脈病変を持つ川崎病の女性の,合計60回の妊娠・出産の報告がある334)-340).そのうちの7人は,冠動脈バイパス術後である337),338),340).1人は無治療で,妊娠中に急性心筋梗塞を起こしている334).冠動脈瘤があっても冠動脈狭窄を認めず,左室駆出率も良好な場合は,合併症なく妊娠に耐容できている.出産の半数は経腟分娩で,残りは帝王切開である.母体死亡はない.約2/3の患者は低用量アスピリン,ジピリダモール,ニトログリセリン,ヘパリンなどが投与されている.これらの患者は,妊娠中に心筋梗塞を起こしていない.出生児は3例が低出生体重児で,1 例に心室中隔欠損を認めたが,他はすべて正常児であった.
妊娠中の低用量アスピリンの使用に関する世界的な流れは,胎児への影響も少なく比較的安全と考えられているが,我が国では薬剤危険度に関する研究・整備が不十分であるため,投与の際には十分な説明と同意が必要となる.抗血小板薬や抗凝固薬の影響については,「弁膜症」─「抗凝固・抗血小板療法」を参照のこと.
川崎病については,妊娠前の評価が最も重要である.成人期川崎病への対応は,日本循環器学会のガイドライン341)を参照されたい.冠動脈狭窄を認める場合は,妊娠前に冠動脈病変を評価し,適応があれば妊娠前に冠動脈インターベンション,冠動脈バイパス術が推奨される.心筋梗塞後で心機能の悪い場合は,心不全,心筋症に準じる.適切な分娩方法と麻酔法は明らかでないが,冠動脈狭窄病変では,無痛分娩や帝王切開が安全と考えられる.冠動脈病変を伴う場合は,妊娠中の注意深い経過観察を必要とする.
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)