4 治療
 妊娠によって増大する心負荷を軽減し,心筋虚血を防ぐために,β遮断薬が第一選択となる(レベルC).また,低用量アスピリンは妊娠中の心筋虚血発作予防に有効である(レベルC).ただし,我が国では「出産予定日の12週以内の妊婦には(用量にかかわらず)禁忌」とされているため,投与する際には十分な説明と同意が必要である.

 急性心筋梗塞に対する血栓溶解療法は,胎児への催奇形性がなく,母体・胎児とも予後が良好であるとの報告が多い331).しかし,母体の出血については十分な注意が必要であり,特に出産時の出血リスクは高い.報告は限られているが,妊娠中の経皮的冠動脈形成術や冠動脈バイパス術も有効である332),333).冠動脈解離に対してはステント留置術が第一選択であるが,広範囲にわたる冠動脈解離では緊急手術が必要である.胎児への影響を考慮すると,妊娠初期にはこれらの手技はできる限り避ける必要がある.妊娠中に冠動脈造影の施行を余儀なくされる場合は,橈骨動脈アプローチを選択するなど,胎児の放射線被曝を最小とする方法で行う必要がある.薬剤溶出性ステントは,術後に抗血小板薬の使用が必須であるため,周産期症例では使用しにくい.

 心筋梗塞後の左室リモデリング予防のために,β遮断薬,低用量アスピリン,スピロノラクトンの投与は許容される(レベルC).アンジオテンシン変換酵素阻害薬は,
胎児毒性(胎児・新生児の腎機能障害,羊水過小,子宮内発育不全,頭蓋骨低形成など)と催奇形性の懸念があり,妊娠中は中止することが望ましい 152)
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心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)