2 急性心筋梗塞の基礎病態
周産期における急性心筋梗塞は,16〜45歳の妊婦のいずれの妊娠時期においても発症の報告があるが,年齢が33歳以上の妊娠後期において最も多い321).経産婦に多く,梗塞部位は前壁が多い.母体死亡は,発症時あるいは発症2週間以内に最も多く,死亡率は21〜50%である.急性心筋梗塞発症の病因は,冠動脈硬化が最多だが50%未満であり,冠動脈造影で狭窄が認められず,冠攣縮あるいは冠動脈内血栓が原因と考えられる場合も少なくない321),323).妊娠に伴う高血圧,あるいは,周産期に投与される麦角アルカロイド,ブロモクリプチン,オキシトシン,プロスタグランジンなどが誘因となることもある323).その他,結合組織病(膠原病),冠動脈瘤の残存した川崎病,鎌状赤血球症,血小板増多症,周術期感染症,血液凝固異常,冠動脈血栓塞栓症なども,周産期急性心筋梗塞の原因となり得る321).
冠動脈解離による急性心筋梗塞は出産直後に発症することが多い.80%で左前下行枝にみられるが,多枝に及ぶこともある323),325).冠動脈解離の原因として,妊娠による血管壁への壁応力の増大326), 抗リン脂質抗体327),血管外膜の炎症328),嚢胞性中膜変性329)などの関与が指摘されてはいるが,未だ明確ではない.
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)