◦体静脈うっ血
◦体心室機能の悪化
◦房室弁逆流の増悪
◦上室頻拍
◦血栓栓塞症
◦ 奇異性血栓症(心房中隔欠損を作成してあるfenestrated
Fontanの場合)
◦流早産
◦低出生体重児
◦不妊,無月経
(レベルB,文献1,195,198,199)
3 チアノーゼ性心疾患(修復術後)
 Fallot四徴症修復術後だけではなく,完全大血管転位症修復術後,Fontan手術後など,複合型先天性心疾患に対する修復術後患者の妊娠・出産も行われるようになった.

 チアノーゼ性先天性心疾患は,修復術後も含めて,感染性心内膜炎のリスクが高いため,分娩時や産科的手術・手技の際の予防投薬を推奨する(「感染性心内膜炎」の項を参照).

① Fallot 四徴症修復術後

 修復されている場合の多くは,妊娠・出産が可能である189)(レベルB).妊娠・出産のリスクは,心機能,遺残症,続発症の程度と循環動態の良否に左右される.また,妊娠時は,一般的に心拍数が上昇するが,Fallot四徴症では,自律神経系機能の異常のため,運動時と同様に妊娠時の心拍数の上昇が悪い2).しかし,NYHA分類I 度の場合は,心不全や不整脈の合併は少ない.Fallot四徴症修復術後患者の多くは,軽度から中等度の肺動脈狭窄・逆流以外に,循環動態に大きな異常がない場合は,妊娠・出産リスクは一般の妊娠に近い190),191).しかし,高度右室流出路狭窄遺残,高度肺動脈弁逆流(三尖弁逆流を伴うことが多い),右室機能不全などを伴う場合は,妊娠による容量負荷が加わると,右心不全の増強,上室頻拍・心室頻拍などを合併することがある1),36),192),193)(レベルB).20%程度に合併症を認める194)が,特にNYHA分類Ⅱ度の場合は,妊娠中の不整脈を認めることが多く,出産後の心不全も1/3程度に認める.また,出産後に大動脈弁逆流が増悪し,大動脈弁置換術が必要となることもある195)

 妊娠危険因子は,遺残心室中隔欠損,中等度以上の肺動脈弁狭窄・逆流,中等度以上の大動脈弁逆流,上行大動脈拡張(40mm以上),右室機能不全(心胸郭比60%以上),左室機能不全(駆出率40%以下),頻脈型不整脈の既往などである45),193)(レベルB).また,肺高血圧合併例では,妊娠リスクは非常に高い.妊娠前に,心機能,右室流出路狭窄,肺動脈弁逆流などの評価を行うことが望ましい.22q11.2 欠失症候群は50%の再発危険率のため,合併の有無に注意を払う必要がある45).しかし,Fallot四徴症に合併した同症候群の妊娠例は非常に少ない.

 胎児リスクはやや高く,一般と比べると,流産率が少なくとも2倍である193)(レベルC).

 心室中隔欠損兼肺動脈閉鎖の修復術後は,妊娠・出産が可能であるが,流産率や合併症発生率が高い.また,無月経などの母体異常も認めることが多い196)
Fallot四徴症修復術後は,多くの場合は良好に修復されているため,妊娠・出産リスクは一般妊娠に近い.妊娠・出産危険因子は,高度肺動脈弁逆流による右室機能不全,左室機能不全,肺高血圧などであり,心不全の増悪,頻脈性不整脈を伴うことがある.高度の右室流出路狭窄を伴う場合は,妊娠前に再手術治療を行うことが推奨される.(レベルB,文献189,190,193,194)
② Fontan 手術後

 Fontan手術は機能的修復術であり,全身への血流を駆出する体心室はあるが,肺血流を駆出する肺動脈心室はなく,右房,体静脈あるいは大静脈系の人工血管が肺動脈への通路となる.このため,中心静脈圧は高く,容量負荷に対応する予備能が低い.また,心拍出量も少ない.チアノーゼは,ないか軽度に残存する.上室頻拍が起こりやすく,頻拍に対する耐容能が低い.さらに,凝固能が亢進しているという特徴がある45).妊娠中,特に妊娠後期は,心房・心室の容量負荷が増大し,凝固能も亢進するため,上室頻拍,体心室房室弁逆流の増悪,心不全,血栓症などを生じやすく, 母児ともにリスクが高い197),198)(レベルC)(表18).NYHA分類Ⅰ〜Ⅱ度で,心機能が良好で,洞調律が保たれている場合は,妊娠時の心負荷に耐え得るため妊娠・出産は可能である197).しかし,この条件を満たす例は多くはない.妊娠中は,体静脈や右房から肺動脈への通路狭窄の進行,心機能悪化,動脈血酸素飽和度低下,血圧変動などに,十分に注意する必要がある197)(レベルC).ワルファリンを使用している場合は,催奇形性のリスクがあるため,妊娠初期3か月は中止あるいは他剤に変更する.アミオダロンは高濃度のヨードを含むため,使用する場合は,胎児の甲状腺機能低下のリスクを考慮する必要がある.

 妊娠・出産可能な条件を満たしている母体でも,妊娠・出産で重大な心血管合併症,非心臓血管関係の合併症を生じることが少なくない.流産を高頻度(人工流産を含む流産率:50〜60%程度)に認める197)-199)(レベルC).低出生体重児の出産が少なくない.また,無月経や月経異常も多いため,不妊率が高い198).分娩時には十分な補液を行い,必要により出口鉗子や吸引を用いて,分娩第Ⅱ期を短縮することも行われる.

 妊娠前に,妊娠可能かどうかの評価を十分に行い,妊娠継続による合併症が少なくないこと,生産児を得られる可能性が有意に低いこと,出産後も育児を十分に行えない可能性があることなどを,患者・家族と十分に話し合う必要がある1)

③ 完全大血管転位症修復術後

 心房位転換手術後(Mustard手術あるいはSenning手術後)で,体心室機能が良好で,遺残病変が軽度の場合は,妊娠リスクはあまり高くはない200)-203)(レベルB).しかし,流産率が高く(29%),有意な不整脈(22%),妊娠時高血圧(18%),早期破水(14%),切迫早産(24%),早産(31%),低出生体重児(22%)など,産科的合併症も多い204).胎児生命予後は良好であるが,早産や低出生体重児がやや多い200)-206)(レベルB).

 心房位転換手術は,右房血流と左房血流を転換し,右室が体心室を担うため,右室が後負荷(体血圧)に加えて,妊娠時の容量負荷に耐え得るかが,妊娠リスクを決める.右室(体心室)機能低下,遺残肺高血圧,不整脈などが妊娠・出産危険因子となる45)(レベルC).妊娠中や出産後に,心不全(16%),右室機能不全(約10%),三尖弁逆流増悪,心房細動を含む上室頻拍(数%),洞機能不全などが起こることがある200)-204)(レベルB).また,出産後の心臓移植を含むと,母体死亡を4%程度に認める205).完全大血管転位修復術後は,妊娠・出産にはよく耐用するが,1/4で右室機能が悪化し,1/2で三尖弁逆流が悪化する.さらに,約半数では,これらの変化が出産後も改善しない206).アンジオテンシン変換酵素阻害薬の使用は胎児腎毒性の可能性から禁忌となる45)

 動脈位変換手術後(Jatene手術)は,心機能は良く,不整脈も比較的少ないが,肺動脈狭窄,肺動脈弁逆流,大動脈弁逆流,冠動脈狭窄・閉塞による虚血性病変などが,危険因子となる可能性がある.妊娠・出産に関する比較的良好な結果が報告されている207)が,まだ報告自体が少ない.

 Rastelli手術後の妊娠・出産は少ないが,心機能がよく,右室流出路狭窄が高度でない場合は,妊娠・出産のリスクは高くない208),209).右室流出路狭窄が高度の場合は,右室機能不全,心室頻拍,心房細動を含む上室頻拍などを生じる可能性が高く,妊娠前に再手術による修復が推奨される.妊娠前に右室流出路導管狭窄,肺高血圧,右室機能などの評価を十分に行う必要がある11)( レベルC).また,妊娠中に左室流出路狭窄が進行することがある24)

④ その他の特異な疾患

 これ以外に,両大血管右室起始症48),心室中隔欠損のない肺動脈弁閉鎖症210)などでの出産の報告がある.母体,胎児ともに合併症を認めるものの,妊娠・出産は可能であるとされるが,いまだ経験症例数が少ない.
表18 Fontan 手術後の妊娠に関する母体・胎児の合併症
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心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)