4 避妊法(総論)
① 原則

 成熟女性は誰でも妊娠する可能性がある.成熟していれば未婚・既婚は問わない.年齢や社会的条件にも左右されない.妊娠は許可されて行うものではない.まして,禁止できるものではない.

 現在のような個人の価値観の多様性が認知されている社会において,避妊に関するカウンセリングで最も重要なことは,母体のリスクによる根拠のみから判断する
ということであり,カウンセリングを行う人あるいは受ける人の個人的観念にとらわれないということである.

 避妊を行うか否か,妊娠・出産を希望するならば,いつ妊娠をするか,時間的に疾患の治療を先行させるか,妊娠・出産を先行させるかなど,以下の項を参照し具体
的方法を決定する.

 なお,Thorne67)らは,心疾患合併の妊娠・出産のリスクを,4段階にクラス分類している.また,世界保健機関(WHO)は,ある避妊法が,ある疾患合併女性に対
して適合しているか否かを4段階にクラス分類している68).これらのクラス分類により,どの心疾患の女性に対して,どの避妊法を推奨するかの参考とすることがで
きる.

② 避妊方法の選択

 永久不妊法として,卵管結紮による永久不妊術がある.妊娠の可能性を残すものとしては,子宮内避妊器具,低用量避妊薬,古典的バリア法がある.また,パートナーの避妊法として,精管結紮による永久不妊術やコンドーム法などがある.それぞれに利点,欠点がある.避妊方法に関する詳細は「避妊法(各論)」に譲る.

③ 疾患側から考慮する事項

 (1)妊娠が危険とされている疾患あるいは状態か否か.
 (2)疾患が進行性か慢性的か.
 (3)現在の状況と将来の予測される状況を比較して,どちらがより良い状態か.
 (4)投薬や手術により疾患の状態が改善する可能性があるか否か.
 (5)機械弁置換術後などでワルファリンを使用しているか否か.

④ 社会的な面から考慮する事項

 (1)年齢.
 (2)既婚か未婚か,未婚の場合は定まったパートナーの存在,結婚の予定.
 (3)生活の安定性.
 (4)本人の職業.
 (5)生活地域,管理する医療機関との距離.
 (6)子供の数,将来の希望.
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心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)