3 呼吸機能の変化
 妊娠中の呼吸生理機能は,母体の呼吸状態および胎盤における母体と胎児間のガス交換を反映する.妊娠の進行に伴い胸式呼吸から腹式呼吸へと変化する.予備吸気量,1回換気量,肺活量は増加するが,予備呼気量,残気量は減少する.安静呼気時の肺容量(機能的残気量)は,妊娠子宮による横隔膜の上昇により低下する.一方,吸気容量は増加するため全肺気量はほとんど変化しない.妊娠中の内分泌学的変化により末梢気管支は拡張するが,主気管支の拡張性が変化することはない.妊娠前期より,プロゲステロンの呼吸中枢に対する直接作用として分時換気量を増加させ,妊娠末期にかけて増加していく酸素消費量に対応する.呼吸数の増加,および酸素消費量の増加を上回る心拍出量の増加による動静脈酸素分圧較差の低下によって,動脈血酸素分圧は上昇する.呼吸数の増加と二酸化炭素分圧の低下は,腎臓での重炭酸の排出を促進させ,代償性呼吸性アルカローシスとして血中pHは正常域に維持される.妊娠後期には労作時の分時換気量と酸素消費量は最大となるが,予備呼吸量は維持されるため,労作が制限されることはない.動脈血酸素分圧は肺胞レベルの換気量増加によって上昇する.一方,動脈血二酸化炭素分圧は低下し,胎盤レベルでの胎児から母体への二酸化炭素の移動を促進させる21)-23)
次へ
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)