①循環器科を専門とする医師(循環器内科医,循環器小児科医,心臓血管外科医など)によるコンサルテーションが,妊娠・出
産時を通じて容易に得られる
②カテーテル・インターベンションや心臓外科手術が施行可能であり,24時間体制で心血管造影室や手術室が使用可能である(ま
れではあるが,妊娠中の病態悪化に対し,カテーテル・インターベンションや心臓血管手術を,緊急に行わざるを得ない場合
がある)
③麻酔科医が常駐(24時間対応)し,中心静脈圧,動脈圧,肺動脈圧などの連続モニターが可能であり,麻酔装置が常備されて
いる.さらに,緊急帝王切開や無痛分娩に対応できる
④臨床工学技士の協力が常に得られ,人工呼吸器,人工心肺装置,大動脈内バルーンパンピング(IABP)装置,経皮的心肺補助
装置を含む機器が,常に使用可能である
⑤集中治療施設があり,各科医師,助産師,産科病棟看護師の協力が得られる
⑥新生児科医が常駐し,分娩に立ち会える.妊娠22週以降の病的新生児,早産・低出生体重児管理が可能な新生児集中治療室(NICU)
の存在
⑦人工妊娠中絶を安全に行える
⑧分娩待機室が完備されている
⑨重症の母体や胎児の状態を観察でき,必要に応じて入院管理が行える
⑩分娩室,分娩手術室を備えている
⑪心臓超音波検査(循環動態の変化を即時に的確に把握できる)が常時稼働できる
⑫ハイリスクの心疾患女性の妊娠・出産には,産科,循環器科,循環器小児科,麻酔科,新生児科,心臓血管外科,内科関連各科,
遺伝科,さらに,循環器疾患分野での経験のある看護師,コメディカルを含む総合したチーム医療を必要とすることが多い
9 望ましい施設基準:心疾患の重症度と管理施設
心疾患女性の妊娠では,妊娠による循環動態,呼吸機能,血液学的・内分泌学的・自律神経学的変化などが加わる(「妊娠・分娩の循環生理」参照)ことにより,背
景となる心疾患の病態が修飾される154).また,出産時は循環動態が急激に大きく変動する.この妊娠・出産時の変化に対する,母体・胎児の適応の程度は,母体の心疾患の重症度に応じて異なる.したがって,心疾患女性の妊娠・出産管理体制は,母体の心疾患の重症度に大きく依存する.心疾患の多数を占める軽症心疾患の場合(NYHA分類Ⅰ度)は,一般の妊娠と同様で妊娠・出産リスクは低く(レベルB),妊娠・出産時の循環動態の変化に十分に対応が可能であり,循環器担当医のコンサルテーションを受けつつ,産科医が中心となり妊娠・出産を進められる(循環器を専門とする施設でなくても管理可能である)5),46),154)(レベルB).しかし,中等症以上の心疾患(NYHA分類Ⅱ度以上,チアノーゼ性疾患の修復術後など)では,妊娠・出産時に心血管系合併症を生じる場合があり5),42),154),155),胎児リスクも高い42),64)-66),156)( レベルB).したがって,中等症以上の心疾患女性で,妊娠・出産のリスクが高いことが予想される場合は,計画的に妊娠する必要があり,妊娠後は循環器を専門とする施設で診療を受けることが推奨される.また,思春期や成人期を迎えた先天性心疾患女性は,出産設備の整った成人先天性心疾患診療施設に紹介されることが,推奨される161),162).以上より,望ましい施設基準を表17に示す.
リスクの高い妊娠の場合は,妊娠・出産を慎重に計画する必要がある.ハイリスク心疾患の妊娠に精通している,産科医,循環器を専門とする医師(循環器内科医,循環器小児科医,成人先天性心疾患を専門とする医師,心臓血管外科医など),麻酔科医,新生児科医などの協力が得られる,循環器を専門とする施設での管理が必要である.リスクの低い妊娠の場合は,一般と同様に妊娠・出産が可能であるが,感染性心内膜炎予防が必要な場合が少なくない.(レベルB,文献140,158)
「心疾患患者の妊娠・出産の適応,管理に関するガイドライン」作成委員会の全国調査では,26%の施設で,チーム診療が行われていた159).今後,心疾患女性の妊娠・出産を扱う主要施設は,このようなチームを確立することが望まれる5),154),158),160),163)が,同一施設内でチームを確立できない場合でも,心疾患に精通した専門各科に容易にコンサルトできる体制を構築することが望ましい(レベルB).
表17 中等症以上の心疾患の妊娠・出産の管理を行うための循環器を専門とする施設の基準
(レベルB,文献42,55,56,64〜66,140,157,158,160,163)
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010)